| タイトル | 混沌大陸パンゲア |
|---|---|
| 著者 | 山野一 |
| 初版発行 | 1993年12月(青林堂) ISBN:4792602378 |
| 新装版発行 | 1999年10月(青林堂) ISBN:9784792603137 |
| ページ数 | 220ページ(初版)/224ページ(新装版) |
| 収録作品数 | 全21編(断末魔境伝カリ・ユガ7編+単独作品14編) |
| 位置づけ | 山野一 第4作品集(現時点で山野一名義の最後の単行本) |
| 主な掲載誌 | 『グランドチャンピオン』(秋田書店)/その他成人誌 |
| 巻末解説 | 大塚恭司(TVディレクター) |
| 現在の状況 | 絶版・入手困難(電子書籍化なし。古書・Amazonマーケットプレイスにて流通) |
| ヤフオク落札相場 | 最安810円〜最高3,890円(平均2,646円) |

巻末解説を寄稿したTVディレクター・大塚恭司は、山野一の作品群を次のように位置づけています。
また、山野一と面識のあった『危ない1号』初代編集長・青山正明は本書を次のように評しています。
本書のオムニバス連載「断末魔境伝カリ・ユガ」のタイトルは、ヒンドゥー教の世界観に基づいています。ヒンドゥー教の教えでは、世界は1ハマー・ユガ(432万年)の周期で生成と消滅を繰り返すとされています。その周期はさらに4つの時代(ユガ)に分かれており、最後の時代が「カリ・ユガ」です。
カリ・ユガにおいては人心は大いに乱れ、社会には貧困と憎悪が蔓延するとされています。そしてすべてが堕落しきった時、破壊神シヴァが現れて宇宙を混沌に戻す——これがカリ・ユガの終末です。山野一はこの世界観を枠組みとして用い、「現代こそカリ・ユガの最末期である」という視点から底辺に生きる人々を描いたオムニバス作品群を構成しました。
タイトル「パンゲア」も同様に象徴的です。パンゲアとは、地球上の全大陸が一体だった超大陸の名称(約3億年前)で、山野一はこの「すべてが混然と繋がった原始の混沌」を、現代の底辺・狂気・電波が入り混じった世界の比喩として用いています。
本書は大きく2つのブロックで構成されています。①秋田書店『グランドチャンピオン』連載のオムニバス「断末魔境伝カリ・ユガ」7編、②単独作品14編です。
| # | タイトル | 掲載誌 | 内容・特徴 |
|---|---|---|---|
| 1 | カリ・ユガ 第1話 ドブ板のある町 |
カリ・ユガ グランドチャンピオン(秋田書店) |
カリ・ユガの時代を生きる底辺の人々を描くオムニバスの第1話。荒廃した町のドブ板を舞台にシリーズの世界観を提示する。 |
| 2 | カリ・ユガ 第2話 全自動ガードマンK |
カリ・ユガ グランドチャンピオン |
全自動化されたガードマンシステムをめぐるエピソード。機械化された管理と人間の底辺の関係を描く。 |
| 3 | カリ・ユガ 第3話 ぼーふらはぼーふら |
カリ・ユガ グランドチャンピオン |
ぼーふら(ボウフラ)という生物の循環性を通して、底辺からの脱出不可能性を描く。 |
| 4 | カリ・ユガ 第4話 楽園の扉 |
カリ・ユガ グランドチャンピオン |
「楽園」への扉を求める者たちを描く。救済への欲求が惨劇へと帰結する構造。 |
| 5 | カリ・ユガ 第5話 希望 |
カリ・ユガ グランドチャンピオン |
「希望」というタイトルの皮肉さが際立つエピソード。カリ・ユガの時代における「希望」の意味を問う。 |
| 6 | カリ・ユガ 第6話 覚醒 |
カリ・ユガ グランドチャンピオン |
堕落の極みからの「覚醒」を描く。シリーズを通じた哲学的問いが収束に向かう。 |
| 7 | カリ・ユガ 最終話 爽やかな夜明け |
カリ・ユガ グランドチャンピオン |
「爽やかな夜明け」という逆説的なタイトルでカリ・ユガシリーズが幕を閉じる。コアファンからも傑作と評される一編。 |
| 8 | 脳梅三代 | 成人誌 | 市役所員の田中が梅毒感染の苦情を受けて一家を訪問すると、祖父が自分の娘に孫を産ませていた近親相姦の実態が判明。田中は逆に祖父に縛られ強制的に行為をさせられる。梅毒・近親相姦・権力の逆転という3つの要素が交差するエピソード。 |
| 9 | むしゃむしゃむ ソーセージ | 成人誌 | 徹夜続きの漫画家が現実から支離滅裂な幻覚の世界へと引き込まれ人格崩壊。女子高生・寿司職人・担当編集者など複数の崩壊した人格を背負わされていく。自己言及的な構造を持つ精神崩壊譚。 |
| 10 | 工員 | 成人誌 | 工場労働者の日常と性的欲望が交錯するエピソード。ヒヤパカ的な底辺労働者描写の路線。 |
| 11 | さるの穴 | 成人誌 | 猿をめぐる不条理な状況が展開する短編。動物と人間の境界を問う内容。 |
| 12 | 走れタキシェ | 成人誌 | 読者から傑作と評価されることが多い一編。タキシェというキャラクターの疾走感が本書全体を象徴する作品。 |
| 13 | 花嫁の花園 | 成人誌 | 花嫁と花園というロマンチックなタイトルと内容のギャップが際立つ作品。性的暴力と幻想が交錯する。 |
| 14 | 壁 | 成人誌 | 「壁」という閉鎖空間をモチーフにした精神崩壊譚。観念の世界をループし続ける構造で、読者から「世界的に通用する水準」と評価される代表作の一つ。 |
| 15 | Closed Magic Circle | 成人誌 | 青山正明を模した人物が登場することでも知られる作品。「閉じた魔法の円環」という観念がループする幻覚的な短編。オチの処理が古典的だが有効と評価される。 |
| 16 | SCHIZOID-ZONE | 成人誌 | 精神分裂病(統合失調症)患者の妄想を内側から描いた短編。「壁」とともに山野一の精神崩壊描写の極北に位置する作品として高く評価される。悲しい結末が特徴。 |
| 17 | 水産 | 成人誌 | 水産業にまつわる不条理な性的エピソード。下ネタの過多さゆえに「誰にも薦めにくいが内容は面白い」という評価を受ける。 |
| 18 | 火星法経会 | 成人誌 | カップルがトンネルに入ると壁面が溶け電車に追われるという幻覚から始まり、「火星法華会」という謎の宗教集会と天竺の五人姉妹(肛門に男性器を入れることができる異族)が絡み合う、サイケデリックな展開を持つ作品。ヒンドゥー的想像力が炸裂する。 |
| 19 | ラヤニール | 成人誌 | 男がうどん屋で「オムルうどん」を注文すると、夢に出てきたヤガユ族の女が厨房に現れる。ヤガユ族は肛門から食物を摂取し口から排泄する一族。男の意識はフィリピンの刑務所の囚人へと飛び、原子力潜水艦が女性器型の洞窟を進む——という多層的な意識の流れを持つ。コアファンから最高傑作と評する声も多い。 |
| 20 | パンゲア | 成人誌 | 書名と同タイトルの表題作。すべての大陸が一体だった超大陸パンゲアを象徴的に用い、本書全体のテーマを集約する作品。 |
| 21 | ムルガン | 成人誌 | ヒンドゥー教の神ムルガン(スカンダ)を題材にした作品。一部の読者からは「達観しすぎていて山野一らしくない」という声もある。本書の締めくくりを担う。 |
Wikipediaが「前作『ヒヤパカ』に比べ」と指摘しているように、本書の前半は「カリ・ユガ」7編と「脳梅三代」「工員」「さるの穴」など、ヒヤパカ的な底辺社会の描写路線を継承しています。「脳梅三代」の梅毒感染家族・近親相姦の構造、「工員」の肉体労働者描写など、ヒヤパカで確立した「階級と身体の惨劇」の系譜が続きます。
本書が前作と明確に異なるのは、「壁」「SCHIZOID-ZONE」「Closed Magic Circle」「むしゃむしゃむ ソーセージ」「ラヤニール」といった精神崩壊・幻覚・電波系の作品群の存在です。ダ・ヴィンチWebのレビューが「序盤は物質面に根ざした貧乏・白痴・奇形を扱い、その暗いトンネルを抜けると薬物・錯乱の精神面へ到達する」と評したように、本書には一冊の中に「底辺のリアリズム」から「精神崩壊の内側」へと読者を連れていく構造があります。
青山正明が「前3作の残酷至上に、性とドラッグをどっさりぶち込んだ新基軸」と評した「ドラッグ」的な感覚は、幻覚・意識の解離・現実と妄想の溶解という形で複数の作品に通底しています。「むしゃむしゃむ ソーセージ」の漫画家が現実から切り離されていく過程、「ラヤニール」の多層的な意識の流れ、「SCHIZOID-ZONE」の統合失調症患者の視点——これらはヒヤパカには存在しなかった「電波系」の本格的な展開です。
「カリ・ユガ」「ムルガン」「火星法経会」などに見られるヒンドゥー教的モチーフは、山野一が単なる日本の底辺社会描写から宗教的・神話的な枠組みへと関心を拡張したことを示しています。Wikipediaが指摘するように「一部のエピソードではヒンドゥー教の用語が用いられ、宗教的な世界観や象徴が表現されている」という新要素は、本書以前の山野一作品には見られないものです。
「断末魔境伝カリ・ユガ」7編が掲載された『グランドチャンピオン』は、秋田書店が刊行していた成年向け漫画誌です。秋田書店は『週刊少年チャンピオン』などの少年誌でも知られる出版社ですが、『グランドチャンピオン』は成人向けの姉妹誌として展開されていました。みのり書房の『漫画スカット』(ヒヤパカの舞台)とは異なる出版社での連載であり、山野一が複数の成人誌に掲載媒体を持っていたことを示しています。
山野一名義の最後の連載作品がこの秋田書店での「カリ・ユガ」シリーズとなり、単行本への収録がそのまま山野一名義の最終作品集となった点は、山野一の商業誌での活動が実質的にこの時期(1993年前後)を境に縮小していったことを示す記録でもあります。
| 初版(1993年12月) | 青林堂刊。ISBN:4792602378。220ページ。現在絶版。古書市場で流通。 |
|---|---|
| 新装版(1999年10月) | 青林堂刊。ISBN:9784792603137。224ページ。現在絶版。Amazonマーケットプレイスに出品されることがある。 |
| 電子書籍 | 現時点で電子書籍化されていない。紙の古書が唯一の入手手段。 |
| 古書相場(ヤフオク) | 最安810円〜最高3,890円(平均2,646円) |
| 前後の作品集 | 第3作『貧困魔境伝ヒヤパカ』(1989年)→本作→第5作『どぶさらい劇場』(1994年) |
- 山野一 第4作品集、かつ現時点で山野一名義の最後の単行本。初版1993年12月・新装版1999年10月(いずれも青林堂)
- 全21編収録。うち7編が秋田書店『グランドチャンピオン』連載「断末魔境伝カリ・ユガ」
- 巻末に大塚恭司(TVディレクター)が解説を寄稿。「Closed Magic Circle」には青山正明を模した人物が登場
- キャッチコピー:「自分の世界観があまりに下らないことに気づいた時こそ山野作品を読むのにふさわしい時である」(大塚恭司)
- 作品タイトルはヒンドゥー教の時代観「カリ・ユガ」と地質学的超大陸「パンゲア」の2つの概念に由来
- 前半は底辺社会の鬼畜描写、後半は精神崩壊・電波・サイケデリックの「新基軸」で構成される2層構造
- 「壁」「SCHIZOID-ZONE」「ラヤニール」は読者から特に高く評価される精神崩壊系の代表作
- 現在は絶版・電子書籍化なし。古書相場(ヤフオク)は平均2,646円

参考・出典:混沌大陸パンゲア – Wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/混沌大陸パンゲア)/山野一 – Wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/山野一)
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