
| タイトル | 大難産 |
|---|---|
| 著者 | 山野一 |
| 出版社 | 文藝春秋(文春e-Books) |
| 刊行日 | 2022年9月7日 |
| ISBN | 9784160901315 |
| 電子版構成 | カラー&モノクロ構成 |
| 内容の関係 | Kindle版『そせじ(2)〜(4)』収録の「大難産1〜7」+書き下ろし100ページ以上を収録した完全版 |
| 入手状況 | Kindle・各電子書籍ストア・紙版で入手可 |
| ジャンル | 出産・育児漫画 / ドキュメント / 医療ノンフィクション的漫画 |
本書を読む前に知っておきたい医学的背景として、TTTSの概要を整理します。
| 疾患名 | TTTS(Twin-to-Twin Transfusion Syndrome) =双胎間輸血症候群 |
|---|---|
| 対象 | 一卵性双生児(双子が同じ胎盤を共有するケース)のみに発症する |
| メカニズム | 本来独立しているはずの二人の胎児の血管がつながってしまい、「供血児(血を送る側)」から「受血児(血を受ける側)」へ一方通行で血液が流れ続ける状態 |
| 影響 | 供血児:血液・栄養が不足し発育不全のリスク 受血児:血液過多により心臓・腎臓に負荷がかかる |
| 治療法 | 胎児鏡下レーザー手術(FLP):胎盤の吻合血管をレーザーで焼切する最先端手術。当時日本でも実施可能な施設は限られていた |
| 作中での描写 | クチ子「特殊漫画家のお前がせっせと描いた鬼畜漫画のカルマ返りだ」 やすお「二人の血液型は適合してるんでしょうか」(的外れな疑問) |
当時(2008年)は現在より施術可能な施設が少なく、山野夫妻は複数の病院をたらい回しにされた末に、ようやく最先端医療設備と名医に出会います。本書はその過程をそのまま記録した「医療ルポ的側面」も持っています。
読む順番については、どちらが先でも楽しめます。「そせじ」を先に読む場合:元気に育っているハナ子・ミミ子の姿を知ったうえで「大難産」を読むため、過去のエピソードに「ああ、この二人がちゃんと生まれてきたんだ」という感慨が加わります。「大難産」を先に読む場合:出産の経緯を一本道で把握したうえで、「そせじ」の育児ドタバタを読むという入り方になります。Amazon読者レビューでは「そせじを先に読んでから大難産を読むと感動が深い」という声が多数見られます。
本書の構成上の特徴として、「元気に育っている現在の双子」と「難病を抱えていた胎内時代の過去」を交互に描く往還構造があります。書評サイト「メモリの藻屑、記憶領域のゴミ」では「幸福な現在と難病治療に奔走する過去とを交互に描きながら、夫妻がどのようにしてこの試練を乗り越えたのかを明らかにする」と評されています。このことで、「どうなるかわからない緊迫感」と「ちゃんと解決することへの安心感」が同時に保たれています。
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1TTTS発覚——「カルマ返り」発言 定期検診でTTTSの疑いが発覚。クチ子は「特殊漫画家のお前がせっせと描いた鬼畜漫画のカルマ返りだ」と憤慨。やすおは「二人の血液型は適合してるんでしょうか」と的外れな疑問を呈し呆れられる。
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2病院のたらい回し TTTS対応の最先端レーザー手術が受けられる施設を求めて複数の病院を転々とする。当時このような手術が可能な施設は国内でも限られており、夫妻は情報収集と移動を繰り返す日々を送る。
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3名医との出会い——胎児の心音とやすおの幻視 ついに最先端医療設備と名医たちに出会う。クチ子の診察中、胎児の心音を耳にしたやすおは窓の外の真昼の東京に「巨大みじんこが浮遊する光景」を幻視する。「幻覚なら室内の壁にも投影されるはずなのに、窓枠できっちり区切られていた」と証言。
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4レーザー手術成功→「スパゲティー状態」と「暗黒の4日間」 胎児鏡下レーザー手術は無事成功。しかしクチ子は術後に身体にチューブ・センサー・介助器具が取り付けられた「スパゲティー状態」となり、身動きも寝返りも許されない状態に。一つ間違えば流産の危険が迫る「暗黒の4日間」が始まる。
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5伯父の幻影——「なーんもすんぱいね」 暗黒の4日間の最中、身動きできないクチ子の枕元に、死去したはずの伯父が神主姿で現われ「なーんもすんぱいね。もーすぐ夜が明けっから」と告げる。後に双子の顔を初めて見た夫妻が「顔、伯父さんに似てる!」と言い合い、看護師が怪訝な顔をするというエピソードも。
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6不在着信13件事件 予定日前に破水したクチ子が繰り返しやすおに電話するが、仕事帰りに泥酔していたやすおは一切気づかず不在着信が13件に。「出産はまだ何週間か先と油断していた」(山野一・文春オンラインインタビューより)。翌朝、緊急の帝王切開手術へ。
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7帝王切開——ハナ子とミミ子の誕生 2008年6月、緊急帝王切開手術によりハナ子とミミ子が誕生。「盛って書いてしまいそうな生まれる瞬間をあっさり流し、あくまでも妊婦の夫という自身の視点から描いている」(Amazon読者レビュー)という演出が山野一らしい誠実さと評される。
書評ブログ「メモリの藻屑、記憶領域のゴミ」は本書の作風について次のように評しています。
また同書評は山野一のグラフィックの質についても言及しています。
「みじんこの幻視」というエピソードはこの「オフザケが噴出する」という特徴を象徴しています。深刻な場面でTTTS診察中に突然みじんこの幻覚を見るという展開は、ドキュメンタリーとしての緊迫感を殺すことなく山野一的な奇妙さを混入させる絶妙なバランスです。書評家は「ねこぢるyとして培ってきたサイケデリックな資質が生きている」とも評しています。
- 著者:山野一 / 出版社:文藝春秋(文春e-Books)/ 刊行:2022年9月7日 / ISBN:9784160901315
- Kindle版『そせじ(2)〜(4)』収録「大難産1〜7」+書き下ろし100ページ以上の完全版
- 電子版はカラー&モノクロ構成。紙版・電子版ともに現在入手可
- 内容:TTTS(双胎間輸血症候群)を発症した双子の胎児を、たらい回しの末に名医の最先端レーザー手術で救い出すまでの実話
- 「現在の元気な双子」と「過去の難産」を交互に描く往還構造で、過酷な内容でも「安心して読める」設計
- やすおの幻視(みじんこ)・伯父の幻影・不在着信13件事件など、山野一特有のオフザケが随所に
- 「盛らずにあっさり流す」出産シーンの演出が「誠実さ」として複数の読者から評価される
- 「そせじ」と合わせて読むことで山野一の全体像がより鮮明になる。どちらが先でも楽しめる

参考・出典:山野一 – Wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/山野一)/そせじ – Wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/そせじ)/文春オンライン 山野一インタビュー(https://bunshun.jp/articles/-/56806)/そせじKindle版応援サイト(https://favor.co.jp/soseji/)/Amazon.co.jp 大難産 商品ページ(https://www.amazon.co.jp/dp/416090131X)
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