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「最も有名なマイナー誌」——誰かがそう呼んだ月刊漫画ガロは、1964年の創刊から2002年頃の実質休刊まで、日本の漫画史に決定的な足跡を残しました。白土三平・水木しげる・つげ義春という創刊期の巨人から、蛭子能収・根本敬・丸尾末広・花輪和一といった1980〜90年代の鬼才たち、そしてねこぢる・山野一までを輩出したガロは、日本語で言う「オルタナティヴ・コミック」そのものでした。本記事では月刊漫画ガロの歴史と、そこで生まれた個性派作家たちの軌跡を徹底解説します。
📖 月刊漫画ガロとは何か——創刊から終刊まで
月刊漫画ガロは、1964年7月24日に青林堂から創刊された日本初の青年漫画雑誌です。創設者は漫画家の白土三平、初代社長兼編集長は青林堂創業者の長井勝一。誌名の「ガロ」は白土の漫画「やませ」に登場する忍者「大摩のガロ」に由来するとともに、「我々の路(我路)」という意味合いも持ちます。
創刊の最大の目的は、題材・内容・スケールから掲載できる場所がなかった白土の代表作『カムイ伝』の連載の場を作ることでした。同時に、貸本漫画の衰退によって活躍の場を失いつつあった漫画家たちへの媒体提供と、新人発掘という側面も持っていました。
白土の方針により「商業性よりも作品を重視し、オリジナリティを第一とする」という編集方針が貫かれ、作家への干渉が比較的少ない「自由な発表の場」として機能しました。この姿勢は1971年以降に原稿料の支払が停止された後も続き、ガロは事実上「原稿料ゼロの雑誌」として知られるようになります。
世の中の漫画は「ガロ系」と「それ以外」の2つに大きく分けられます。
— みうらじゅん(漫画家・タレント)
あまりにも私的で特異な題材を前面に打ち出しているためにほとんどすべての日本国民から無視・黙殺・拒絶され、職業として成り立ち得ないまでにマイナーな漫画の一ジャンル。
— 山野一(漫画家)「特殊漫画」の定義として
基本データ
| 誌名 | 月刊漫画ガロ |
| 創刊 | 1964年7月24日 |
| 終刊 | 2002年頃(実質的な休刊) |
| 出版社 | 青林堂(1990年よりツァイトに経営譲渡) |
| 創設者 | 白土三平 |
| 初代編集長 | 長井勝一(青林堂創業者) |
| 後継誌 | アックス(青林工藝舎・1998年創刊、隔月刊) |
| 最盛期部数 | 公称8万部・実数4.8万部(1966年頃) |
| 原稿料 | 1971年以降は事実上ゼロ |
| 位置づけ | 日本初の青年漫画雑誌 / 日本のオルタナティヴ・コミックの総本山 |
ガロの3つの時代
-
第1期
1964
〜70
創刊期——白土・水木・つげの黄金時代
白土三平の『カムイ伝』と水木しげるの『鬼太郎夜話』が2本柱。おおよそ100ページをこの2作が占め、残りをつげ義春・滝田ゆう・つりたくにこ・永島慎二らがレギュラーとして埋めた。1967〜68年につげ義春が『ねじ式』『ゲンセンカン主人』などを発表し漫画界・美術界に衝撃を与える。全共闘世代の大学生を中心に熱狂的な読者層を形成。池上遼一・佐々木マキ・林静一らの新人も輩出した時代。
-
第2期
1970
〜85
混乱と多様化——鬼畜系・電波系の萌芽
1971年に原稿料の支払いが停止される経営難の中でも、有力新人を次々と発掘する。楠勝平(1974年夭折)・花輪和一・鈴木翁二・蛭子能収・安部慎一・みうらじゅん・南伸坊・渡辺和博・ひさうちみちおらが登場。貸本漫画から続く「劇画」の影響を脱し、より実験的・個人的な表現が前面に出るようになった。1980年代には杉浦日向子・丸尾末広・根本敬が加わり「ガロ系鬼畜・耽美」の世代が形成される。
-
第3期
1985
〜02
悪趣味ブームとねこぢる——最後の輝き
1990年代に「悪趣味ブーム」の文脈でガロ系の認知度が急上昇。ねこぢる(山野一とのコンビ)・山野一・山田花子・内田春菊・魚喃キリコ・近藤ようこ・しりあがり寿・古屋兎丸らが活躍。1992年のねこぢる特集、同年の山田花子急逝に対する追悼特集号など、ポップカルチャーとの接続が拡大。1998年に後継誌「アックス」が創刊され、2002年頃に実質的な休刊を迎えた。
👤 作家紹介——ガロを彩った10人の鬼才
白土三平
しらと さんぺい 1932〜2021年
ガロ創設者
忍者劇画
1964年〜
東京都出身 / 父は洋画家・岡本唐貴
2021年10月8日、誤嚥性肺炎のため89歳で逝去
ガロの創設者にして最初の看板作家。幼少期は父・岡本唐貴の影響で油絵を学び、戦後は生計のために紙芝居の原画を描き始めた。1957年頃から漫画家に転じ、1959年の『忍者武芸帳 影丸伝』で人気漫画家の地位を確立。そして「カムイ伝のための雑誌」として1964年にガロを創刊する。
白土三平の特徴は、マルクス主義的な階級史観を忍者漫画に応用した「社会批評としての劇画」という独自の立場にあります。江戸時代の被差別民・忍者の物語を通じて、支配者と被支配者の関係、人間の解放とは何かを問い続けた作品群は、全共闘世代の大学生に熱烈に支持されました。「ガロは商業性よりも作品を重視する雑誌でなければならない」という白土の姿勢がガロ全体の編集方針の根幹となり、作家の自由を守る場として機能し続けました。
自映像化には極めて厳格な姿勢をとり続けており、テレビアニメ化の際に自作品の権利を東映動画に独占されたことを機に、以後の映像化を厳しく管理するようになりました。2021年に89歳で逝去するまで、生涯にわたって一つの生き方を貫いた漫画家でした。
代表作
カムイ伝(1964〜1971年、ガロ)
カムイ外伝(1965〜、週刊少年サンデー)
忍者武芸帳 影丸伝(1959〜)
サスケ(1961〜)
ワタリ(1965〜)
水木しげる
みずき しげる 1922〜2015年
ガロ創刊期の柱
妖怪漫画
1964年〜
鳥取県境港市出身 / 太平洋戦争で左腕を失う
2015年11月30日、多臓器不全にて93歳で逝去
ガロ創刊期から最重要の執筆者の一人。長井勝一が「雑誌と認めてもらうための最低7人の執筆者」を埋めるために水木しげる本人に複数の名義で投稿させたという逸話は有名です。太平洋戦争中に左腕を失い、死地から生還した後に貸本漫画で活動を開始。ガロでは貸本版『鬼太郎夜話』のリメイクを1967年から1969年にかけて連載しました。
ガロ掲載の『鬼太郎夜話』は週刊少年マガジン版と並行して連載されましたが、ガロ版はブラックユーモアと風刺が強く、鬼太郎が人間を助けるどころか放置したり騙したりするエピソードも珍しくありません。「人間は人間、妖怪は妖怪」というスタンスが貫かれた本作は、少年向けのゲゲゲの鬼太郎とは一線を画す大人向けの傑作です。
水木しげるはガロの経営難を経済的に支援した人物でもあり、白土三平がガロ設立における水木の貢献を「創刊時の柱であり、経済的支援とともに他誌デビューの足掛かりになった」と評しています。2015年に93歳で逝去。境港市の「水木しげるロード」には多くの妖怪ブロンズ像が並んでいます。
代表作
鬼太郎夜話(1967〜1969年、ガロ)
ゲゲゲの鬼太郎(週刊少年マガジン)
悪魔くん(1963〜)
河童の三平(1961〜)
総員玉砕せよ!(戦争体験記)
コミック昭和史
つげ義春
つげ よしはる 1937年生
幻想・私小説
夢幻系
1965年〜1987年
東京都葛飾区出身 / 小学校卒業後にメッキ工場へ就職
第47回アングレーム国際漫画祭 特別栄誉賞(2020年)
ガロを語るうえで最も欠かせない漫画家の一人。1954年にデビューし、貸本漫画で活動した後、白土三平に「連絡乞う」と誌面で呼びかけられる形で1965年からガロに移行。1967〜68年が最も精力的な時期で、旅をモチーフにした叙情的短編と夢幻的シュール短編を多数発表しました。
1968年の『ねじ式』(「メメクラゲにやられた」男が医者を求めてさまよう16ページの短編)は、発表と同時に漫画界・美術界・文学界をも巻き込む衝撃を与え、全共闘世代の学生から圧倒的な支持を受けました。夢の論理で現実が解体される独自の幻想表現は、フランスのシュルレアリスムとの近縁性を指摘され、2020年のアングレーム国際漫画祭特別栄誉賞につながりました。
1987年の『別離』を最後に断筆し、以降は漫画作品を一切発表していません。妻は唐十郎主宰・状況劇場の元女優・藤原マキ、弟はガロでも活動したつげ忠男、長男は漫画家のつげ正助。
代表作
ねじ式(1968年、ガロ)
ゲンセンカン主人(1968年、ガロ)
紅い花(1967年、ガロ)
リアリズムの宿(1973年)
無能の人(1984〜87年)
貧困旅行記(随筆集)
楠勝平
くすのき しょうへい 1944〜1974年
夭折の天才
市井の人々
1960年代〜1974年
東京都荒川区出身 / 本名:酒井勝宏
1974年3月15日、心臓弁膜症のため30歳で夭折
ガロが輩出した最大の「夭折の天才」。白土三平のただひとりの弟子として師のアシスタントを務めながら、ガロ・COMを中心に作品を発表。中学生の頃から患っていた心臓弁膜症が悪化し、1974年3月15日にわずか30歳で世を去りました。
楠勝平の作品は「市井の人々の哀歓」を描くことに徹した劇画です。江戸・明治の下町を舞台に、名もなき庶民の喜怒哀楽を繊細なタッチで描いた作品群は、ガロの鬼畜系・電波系とは異なる「叙情・哀愁」路線の極北に位置します。長井勝一は後に「白土三平さんのただひとりの弟子なんだけど若くして亡くなったからね……まさしく夭逝の天才だよ……もう少し生きててもらいたかった」と語っています。
いしいひさいちは生涯ベスト単行本に楠勝平の『おせん』を挙げており、山岸凉子は2021年のちくま文庫版選定にあたり「メジャーで普遍的な世界を描いている」と評しました。単行本は長い間入手困難でしたが、2001年に青林工藝舎から600ページの作品集が限定3000部で刊行されています。
代表作
おせん(青林堂)
彩雪に舞う…(青林工藝舎 作品集)
ガロ別冊「楠勝平特集」(1970年)
蛭子能収
えびす よしかず 1947年生
ヘタウマ
不条理ギャグ
1973年〜
熊本県出身 / 元看板屋
漫画家・タレント・俳優・映画監督と多角的に活動
1973年にガロに掲載された『パチンコ』で漫画家デビュー。看板屋時代に『ガロ』1968年6月増刊号の「つげ義春特集」で『ねじ式』を読んで衝撃を受け、「大阪万博を見に行く」と嘘をついて上京したというエピソードは有名です。
蛭子能収の漫画の特徴は「ヘタウマ」と呼ばれる独特の絵柄と、現実の倫理や論理が一切通用しない不条理な展開にあります。主人公が理不尽に暴力を受け、犯罪が平然と行われ、善人が報われず、物語は何の教訓もなく終わる——これを笑いに昇華するという蛭子独自のスタイルは、ガロ系漫画の中でも最も「読者を選ぶ」ジャンルに属しながら、一方でバラエティタレントとして幅広い国民的認知を得ることにもなりました。
根本敬との共作ユニット「蛭子劇画プロダクション」(2008年〜)を結成。ガロ誌上での原稿料ゼロという状況の中で、三流劇画誌や自販機本など多数の媒体で同時並行的に活動を展開したことも、ガロ系作家の典型的なあり方を示しています。
代表作
地獄に堕ちた教師ども(青林工藝舎)
私はバカになりたい
私の彼は意味がない
ひとりぼっちを笑うな
村田の首
花輪和一
はなわ かずいち 1947年生
耽美・猟奇
怪奇ファンタジー
1971年〜
埼玉県大里郡寄居町出身 / 北海道在住
銃刀法違反で実際に刑務所に服役(1999〜2001年)
1971年のガロ掲載『かんのむし』でデビュー。かねてからガロに掲載されたつげ義春の『ねじ式』に刺激を受けて漫画を投稿し採用されたという経緯を持ちます。伊藤彦造ら大正モダニズムの挿絵に多大な影響を受けた、繊細かつ濃厚なタッチの画風が最大の特徴で、丸尾末広と並ぶ「耽美系」「猟奇系」作家として評価されています。
初期作品はエログロナンセンス的な猟奇描写が中心でしたが、活動中期以降は平安〜室町時代の日本を舞台にした怪奇ファンタジーへとシフト。人間の「業(ごう)」をベーステーマとした宗教的救済の物語を、密度の高いビジュアルで描き続けています。
1999年に自宅から違法な銃が発見されて逮捕・服役。この実体験を漫画化した『刑務所の中』(2000〜2001年)は映画化(2002年、三池崇史監督)され、花輪和一の名前を広く世に知らしめました。
代表作
刑務所の中(映画化・2002年)
かんのむし(1971年、ガロ)
少女山椒魚
地獄変
八百万の神々
江戸昭和競作無惨絵(丸尾末広との共作)
丸尾末広
まるお すえひろ 1956年生
耽美・猟奇
大正ロマン
1980年〜
長崎県諫早市出身 / 7人きょうだいの末っ子
手塚治虫文化賞新生賞受賞(2009年、パノラマ島綺譚)
1980年に官能劇画誌でデビューし、官能劇画誌『漫画エロス』とガロを中心に活動。花輪和一と並ぶ「耽美系」「猟奇系」の代表的作家で、大正・昭和初期のレトロモダンな雰囲気と残酷描写・性的描写が融合した独自の作風が特徴です。精神科医の斎藤環は「ラフカディオ・ハーン以来の日本文化を歪めてながめてグロテスクなりエロティシズムを前景化した系譜」として丸尾を江戸川乱歩・三島由紀夫・花輪和一とともに挙げています。
代表作『少女椿』(1983〜84年連載)は、昭和13年を舞台に見世物小屋に売られた少女みどりの壮絶な体験を描いた作品で、女子高生を中心に10代後半の読者層から密かな支持を得て読み継がれています。電子書籍化もされていない現在でも、改訂版が青林工藝舎から刊行されています。
2009年には江戸川乱歩の『パノラマ島綺譚』を完全漫画化し、手塚治虫文化賞新生賞を受賞。一時期活動を中断したものの、以降は江戸川乱歩・木下杢太郎・夢野久作など日本近代文学の名作を漫画化する活動を続けています。
代表作
少女椿(1983〜1984年)
パノラマ島綺譚(手塚治虫文化賞受賞)
薔薇色ノ怪物
江戸昭和競作無惨絵(花輪和一との共作)
ゴシック&ロリータバイブル(表紙イラスト)
根本敬
ねもと たかし/けい 1958年生
特殊漫画大統領
電波・因果
1981年〜
東京都出身 / 東洋大学文学部中退
「特殊漫画」「電波系」「因果者」の造語者
「特殊漫画家」「特殊漫画大統領」を自称する根本敬は、ガロ系漫画家の中でも最も過激な作風を持ち、「因果者(いんがもの)」「電波人間」探訪の権威として1990年代のサブカル界を牽引しました。1981年にガロでデビュー。水木しげるの作品に幼少期から強く影響を受け、15歳からガロを読み始め「この雑誌に参加したい」と決意した経緯を持ちます。
「電波系」「因果者」「ゴミ屋敷」「特殊漫画」などといったキーワードを作り出したのは根本敬です。奇妙な言動や行動をとる「電波系」の人々のルポルタージュを漫画・文章・映像で記録し続け、悪趣味系サブカルチャーへ与えた影響は計り知れません。蛭子能収とは「蛭子劇画プロダクション」を結成し、それぞれの画風を真似して競作するなど深い関係を続けています。
ガロ系作家が食えない中で「幻の名盤解放同盟」としての音楽活動・映像作家活動・コレクター・人物研究家など多角的に活動を展開したのも根本敬の特徴です。つげ義春の『ねこぢる大全』(文藝春秋)では山野一との特別対談「いまも夢の中にねこぢるが出てくるんです」を収録しています。
代表作・活動
生きる(青林工藝舎)
因果鉄道の旅
怪人無礼講ララバイ
豚小屋発犬小屋行き
電波系(村崎百郎との共著)
幻の名盤解放同盟(音楽活動)
山野一
やまの はじめ 1961年生
鬼畜系
電波系
育児漫画
1983年〜
福岡県小倉市出身 / 立教大学文学部卒
ねこぢるy名義での活動も。最新作『そせじ』(2014年〜)
1983年にガロでデビュー。立教大学卒業後、家賃16,000円・風呂なしの四畳半でガスも電気も止められた環境で漫画を描き続けた。バブル前夜の1985〜86年に連載した『四丁目の夕日』は、高度経済成長から取り残された底辺の人々を容赦なく描き、ガロ読者に衝撃を与えました。
1989年の『貧困魔境伝ヒヤパカ』は「ヘラヘラ幸せ脳天気漫画の脳天に鉄槌を打ち込む」というキャッチコピーが示す通り、底辺・電波・精神崩壊を「滑稽な表現」で描いた短編集です。その後の妻・ねこぢるとの共同作業(1990〜1998年)、ねこぢる没後の「ねこぢるy」名義での活動を経て、2014年には50歳目前で双子を授かったことを機に育児漫画『そせじ』をKindleで発表。鬼畜系から育児漫画への転身という振れ幅が独特のキャリアを作り出しています。
代表作
四丁目の夕日(1985〜86年、ガロ)
貧困魔境伝ヒヤパカ(1989年)
混沌大陸パンゲア(1993年)
どぶさらい劇場(1994年)
そせじ(2014年〜 Kindle)
大難産(2022年 文藝春秋)
ねこぢる
ねこぢる(本名:橋口千代美) 1967〜1998年
シュール不条理
動物漫画
1990〜1998年
埼玉県北足立郡鳩ヶ谷町出身
1998年5月10日、東京都町田市の自宅にて縊死(31歳没)
山野一の妻。もともと漫画家ではなく、描いていた「奇妙なタコのようなネコの落書き」を山野一が気に入り、妻の夢のメモをストーリーに仕立てて1990年にガロで「ねこぢるうどん」としてデビュー。以後、山野一が原作・ペン入れ・渉外を担当する共同作業の形で活動を続けました。
「にゃーこ」「にゃっ太」という猫の姉弟が日常の中で残酷・不条理な出来事を当然のように実行するシュールな短編オムニバスは、1992年のガロ特集を機に熱狂的なムーブメントを巻き起こしました。「可愛いのに残酷」「淡々としながらエキセントリック」という作風は、ガロの枠を超えて少年誌・女性誌・東京電力のキャラクターにまで採用されるほど波及しました。
hyde(L’Arc〜en〜Ciel)との接点でも知られ、1997年にCD「D’Ark〜en〜Ciel」のイラストを担当(発売中止→2006年正式発売)。1998年5月10日に縊死。31歳没。遺書はなく、山野一は「故人の遺志により動機・経緯は公表できない」とした。死後も山野一がねこぢるyとして作品を継承しています。
代表作
ねこぢるうどん(1990年〜、ガロ)
ぢるぢる旅行記(インド・ネパール)
ねこ神さま
ねこぢる大全(上下巻・文藝春秋)
ねこぢる草(OVA・湯浅政明監督)
杉浦日向子
すぎうら ひなこ 1958〜2005年
江戸風俗
叙情短編
1980年〜1993年
東京都出身 / 日本画を学んだ後に漫画家へ
2005年7月、子宮頸がんのため46歳で逝去
ガロ系の中でも異色の「美しい江戸」を描いた漫画家・随筆家・江戸風俗研究家です。日本画を学んだ後に漫画家としてデビューし、1980年代のガロで江戸の市井の人々と風俗を繊細なタッチで描いた叙情短編を発表し続けました。根本敬や蛭子能収の鬼畜路線とは正反対の「やさしく静謐な世界」を持ちながらも、ガロという場でしか発表できない「商業誌には馴染まない個性」として存在しました。
1993年に漫画家を引退し、以後は江戸風俗研究家・エッセイストとして活動。NHK「コメディーお江戸でござる」では江戸風俗についての解説コーナーを持ち、幅広い視聴者に親しまれました。代表作『百日紅』(1983〜87年)は葛飾北斎の娘・お栄を主人公にした漫画で、2015年にアニメ映画化されています(監督:原恵一)。
代表作
百日紅(1983〜87年、アニメ映画化2015年)
合葬(1983年)
風流江戸雀
一日江戸人(随筆)
江戸へようこそ(随筆)
📚 ガロ系おすすめ作品ガイド——難易度別・目的別
ガロ系は「読む人を選ぶ」漫画ジャンルです。まず自分の読書体力を確認し、適切な入口から入ることをおすすめします。
| 難易度 | タイトル・作者 | ジャンル | 一言コメント |
| ★☆☆(入門) |
百日紅 / 杉浦日向子 |
江戸・叙情 |
最も読みやすいガロ系。美しい江戸の日常と北斎の娘・お栄の物語。アニメ映画化済み。 |
| ★☆☆(入門) |
ねこぢるうどん / ねこぢる |
シュール・動物 |
可愛い絵柄ながら残酷・不条理。ガロ系の雰囲気を手軽に体験できる入口。ムーブメントを作った作品。 |
| ★☆☆(入門) |
四丁目の夕日 / 山野一 |
鬼畜系・私小説 |
山野一の初長編連載。Kindleで読める唯一の山野一作品。バブル前夜の底辺社会の実態。 |
| ★★☆(中級) |
ねじ式 / つげ義春 |
夢幻・シュール |
16ページで読めてガロの本質を凝縮。「メメクラゲ」から始まる夢の論理が独特の読後感を残す。 |
| ★★☆(中級) |
ゲンセンカン主人 / つげ義春 |
幻想・叙情 |
ドッペルゲンガー的ラストが謎めいた傑作。「前世がなかったら私たちはまるで幽霊ではありませんか」。 |
| ★★☆(中級) |
カムイ伝 / 白土三平 |
忍者劇画・社会派 |
ガロ創刊の原動力となった長編大作。江戸時代の被差別民と忍者の物語を通した社会批評。全21巻。 |
| ★★☆(中級) |
無能の人 / つげ義春 |
私小説・ユーモア |
石を売る漫画家の哲学が笑えてせつない。映画版(竹中直人主演)と合わせてどうぞ。 |
| ★★★(上級) |
貧困魔境伝ヒヤパカ / 山野一 |
鬼畜系・短編集 |
山野一の短編集の中で最も「山野一らしい」一冊。全14編、性的暴力・精神崩壊・スカトロを含む。 |
| ★★★(上級) |
少女椿 / 丸尾末広 |
耽美・猟奇 |
昭和13年の見世物小屋に売られた少女みどりの壮絶な物語。女子高生を中心に密かに読み継がれてきた作品。 |
| ★★★(上級) |
刑務所の中 / 花輪和一 |
実録・ユーモア |
自らの服役体験を漫画化。刑務所の日常を淡々と描くギャップが爆笑を誘う問題作。映画化(三池崇史)。 |
| ★★★(上級) |
混沌大陸パンゲア / 山野一 |
鬼畜系・電波系 |
ヒンドゥー的世界観×精神崩壊×底辺。ファンから「山野一名義の最高傑作」と称される全21編の短編集。 |
| ★★★(上級) |
生きる / 根本敬 |
特殊漫画 |
「特殊漫画大統領」根本敬の代表的短編集。電波系・因果者・鬼畜系を最も過激な形で体現した作品群。 |
✅ まとめ:ガロ系漫画とは何か
- 月刊漫画ガロは1964年に白土三平と長井勝一が創刊した日本初の青年漫画雑誌。2002年頃まで刊行(後継誌:アックス)
- 「作家性の尊重・商業性の拒否」を徹底し、1971年以降は事実上「原稿料ゼロ」の雑誌として知られた
- 創刊期(白土三平・水木しげる・つげ義春)→中期(楠勝平・蛭子能収・花輪和一・丸尾末広・根本敬)→末期(ねこぢる・山野一・杉浦日向子・山田花子)という3世代の個性派作家を輩出
- 「ガロ系」とは特定の雑誌だけを指すのではなく、商業誌には馴染まない「私的・実験的・反商業的」な漫画表現全体を指す言葉として現在も使われている
- 「世の中の漫画はガロ系とそれ以外の2つに分けられる」(みうらじゅん)という言葉が示す通り、日本の漫画表現の多様性の根底にガロの存在がある
- つげ義春は2020年アングレーム国際漫画祭特別栄誉賞受賞。ガロ系は海外のオルタナティヴ・コミックとも親和性が高いと評される
- 現在の入門としては、つげ義春のちくま文庫版・楠勝平のちくま文庫版・杉浦日向子の単行本・ねこぢる大全(電子書籍)・山野一『四丁目の夕日』(Kindle)などが比較的入手しやすい
参考・出典:月刊漫画ガロ – Wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/ガロ_(雑誌))/ガロ系 – Wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/ガロ系)/つげ義春 – Wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/つげ義春)/根本敬 – Wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/根本敬)/花輪和一 – Wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/花輪和一)/丸尾末広 – Wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/丸尾末広)/蛭子能収 – Wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/蛭子能収)/楠勝平 – Wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/楠勝平)/杉浦日向子 – Wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/杉浦日向子)
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